HBSの名物授業 Negotiation

HBSの名物授業 Negotiation

HBSが教える名物授業の一つに交渉術 Negotiationがあります。交渉と聞くと情報収集から始まり、相手に対して有利なポジションを取り、より良い条件を勝ち取っていくプロセスというイメージがあります。この授業は、1) 交渉は相手からのパイを奪い取る、いわゆるゼロサムゲームだという常識を覆し、かつ 2) 模擬練習を繰り返し行うことで自分にあった交渉術を体得する ためのものです。

珍しく3名の教授が分担して教える授業でしたが、なんと言っても目玉の教授はKevin Mohan教授。(トップの写真は最後の授業の時のもの)HBS→McKinsey→PE というキャリアですが、とにかく人気で今回運良く受講することができました。噂通り教えるのがうまい。どううまいのか、文章で描写するのは難しいのですが、生徒に投げかける質問や返答、使う例などがなるほどと納得させる内容で、教授の作り出す世界に引き込まれるような感覚があります。卒業して3ヶ月経つ今でも、Mohan教授の語りが直接蘇ってくるほど。今から思い返すと凄い教授はみんなこの特性を持ち合わせていましたね。

期末試験とは別に Personalized Prescriptive Negotiation Manual という自分用の交渉マニュアルをまとめる宿題があったため、そこから抜粋して学びを要約します。

交渉は大きく分けると上記の3段階に分けられます。それぞれのステップに共通してある目的は、「それぞれのパーティーが取る価値の合計を最大化(=パイを最大化)した上で、自身の取り分を極力増やす」ということです。

① 適切な準備/設定を行う
a) 「Party Map」を描く
交渉に携わる全ての関係者を描き、繋がりを線で表していきます。例えば、ある港湾の開発会社が港Aの買収を検討している時、交渉に影響を与える相手は港の所有者だけではなく、競合相手、行政、労働組合、周辺住民など多岐に及びます。交渉全体を把握し立体的にアプローチを検討します。

b) 各Partyの関心/要求を書き出す
良く用いられる例えがあります。ある兄弟が一つのオレンジを巡って争った時、お互い譲らなかったため半分ずつを分け合った。しかし、実は兄はオレンジの中身が食べたく、弟はジャムを作るために皮が欲しかった。もしお互いの求めるものをしっかり把握していたら、一つのオレンジはこの二人により価値を生んだはずなのに・・・
価格など一つのことを争っているように見える交渉でも、実はそれぞれの興味は微妙にズレた所にあったりします。

c) 交渉の順序を考え、交渉力を得る
日本的な言い方をするといわゆる根回し、でしょうか。例えば最後にあるトップ同士の会談で決めたいという交渉がある場合、そこから逆算してしかるべき根回しを考えます。

② 交渉プロセスをデザインする
a) 関心の違いをあぶり出し、パイを最大化する
前提が整理された次に一般的に行われるのはBATNA (Best Alternative to Negotiated Agreement) やZOPA (Zone of Possible Agreement) の特定ですが、その前に各Partyの要求事項の優先順位は何かを可視化します。例えば、価格交渉をしている時、ZOPAは価格という直線状の世界での勝負だと思いがちですが、お互い求めている優先順位は意外と違うものです。先ほどのオレンジの例もパイの最大化に当たります。

b) 長期的な関係性を構築する
交渉をゼロサムゲーム的な感覚で行っていると、そのディールでどれだけの価値を取れたかにフォーカスしがちになります。ただ、特にビジネスでは相手と複数の交渉が並行して走っていたり、その後も良好な関係を築くことでよりメリットがある場合があります。単体の交渉で結論を出す危険性を意識します。

③ 交渉テーブルでの戦術を立てる
a) 要求と根拠をセットで提示する
アンカリングという手法があります。あるお土産を最終的に10,000円で買いたいと思っていたら、いきなり10,000円とは言いませんね。まずは先手で7,000円と言うところから始める。さらに理想はなぜ7,000円なのかと言う根拠を添えて上げると良いです。「同じような機能を持つ他の商品をネットで調べたらXXX円だったから」などと。アグレッシブな要求をしても然るべき根拠と提示することで相手の信頼を失いにくくなります。

b) 質問を繰り返して「問題解決モード」を見せる
交渉の中で、相手に対して数々の質問を繰り返します。その時に複数の選択肢を提示するのも有効です。「A, B, Cのオファーがありますが一番貴方の要求に近いのはどれですか?それはなぜですか?」と聞くと、より具体的かつスピーディーに相手の要求を把握できます。

c) 文化的相違を意識する
日本とアメリカでは有効な交渉プロセスは違います。昨今は減ってはきていますが、日本ではまず食事会などのInformalな場での関係構築が有効に働くケースが多かったり、国によってアプローチは変わってきます。この違い、実は馬鹿にできないほど大きいです。「違いは存在する」ということを意識していないと実は大勘違いを起こしていることも・・・

授業の最大の特徴は、実践練習と反省を繰り返すことで、自分が交渉者としてどのような特徴を持っているか知ることができるとういことでした。特に大事なのは弱みを知ること。これをカバーするために自身が成長するか、もしくは他に補完できるメンバーを補充する必要があります。
僕が特に弱かったのは、時には断定的な態度を取って議論をリードすること。相手の意図を汲み取ろうとしすぎると、断固とした主張をするタイミングが遅れてしまったことが多々ありました。アメリカ人とか中東の人とかはこれを関心するほどうまくやったりします。逆にこういう人とチームを組んで交渉に望んだ時はかなり好成績を残せたりしたので、自分は誰と組むとパフォームするのかを知る機会にもなります。

ちなみに練習での交渉成績は記録され、最後に表彰があります。僕は「周りが知らないまま、大勝ちしてる人」賞的なものを取りました笑 友好的な関係を築きながらも、より大きな価値を勝ち取れた、とポジティブに解釈しておきます。